催眠


 

 聖地では、守護聖同志の親睦を深めるという目的の元、週末には頻繁にお茶会が開かれていた。兎角娯楽には疎い聖地にあって、守護聖はその最たるもので、お茶会もただのおしゃべりの場と化していたのだが、最近商人のチャーリーによって爆発的勢いで娯楽が増えていた。

「さて、今日は、催眠術やで」
 チャーリーが仕込んだ芸で、一月に一度行われるお茶会は、女王まで参加するほどの賑わいを見せていた。
「催眠術…」
 皆聞きなれない単語に、互いに顔を見合わせていると、チャーリーが早速何やら始めようとしていた。
「今日は、クラヴィス様がやってくれはります」
 そう言って、クラヴィスに振ると、先程から皆が不思議に思っていた水晶球をテーブルの上に置き、二人で何やら打ち合わせを始めた。
 皆が興味津々で二人の様子を伺っていると、休日出勤を終えたジュリアスがやって来た。
「遅れてすまぬ」
 恐縮したように言って、そっと空いている席に座る。
「今日は何なのだ?」
 小声で隣のオスカーに聞く。
「催眠術だそうです」
「催眠術!」
「ご存知ですか?ジュリアス様」
「あ、ああ、知らなくもないが…」
 訝しげにクラヴィスを伺うジュリアスに、オスカーが付け加えた。
「今日はクラヴィス様がなさるそうです」
「え?クラヴィスが?」
 突然の大声に、皆が何事かと振り返る。
「そうなのよ〜楽しみよね〜ジュリアス〜」
 オリヴィエがニヤニヤ笑いながら、ジュリアスに顔を寄せる。
 オスカーが睨むが、一向に堪えぬ風に肩に手を回して、密着する。
「オリヴィエ!!」
「何よ」
 自分を挟んで険悪なムードの二人に、少し困ったような顔をするジュリアス。
「あ〜ジュリアス〜ご苦労様ですね〜休みだというのに〜」
 見かねたようにルヴァが声を掛け、ジュリアスに助け舟を出す。
「ああ、仕方がないからな…だが、明日は休めそうなのだ」
 嬉しそうに言うジュリアスに、ルヴァが目を細める。
 ジュリアスだとて、仕事が楽しいわけではない。比較的長いつきあいのルヴァはそのことを知っている数少ない人間であった。
「なんだよ、仕事大好き人間じゃねーのかよ」
 ゼフェルの言葉にジュリアスの表情が曇る。何かを言いかけたところで、準備が整ったらしくチャーリーがしゃべり出した。
「はいはい、じゃ、始めますよって、お喋りはナシやで」
 クラヴィスは水晶球に向かい精神統一しているようだった。
「まあ、論より証拠って言いますからな〜、見てもらったほうが話が早い」
 そう言いながら、皆を眺め回すチャーリーに、ジュリアスは落ち着かなく座りなおす。
「じゃあ、誰がええかな〜」
 チャーリーの視線が少しでも自分の上で止まると、皆視線を逸らす。
「一番かからなさそうな奴にしようぜ」
 ゼフェルの声にチャーリーがにやりと唇の端を上げる。
「そんなら、ゼフェル様に決まりやな」
 焦らされる事に我慢できずに、声を上げてしまった自分を悔やみつつ、しかし一方で絶対罹らない自信のあったゼフェルは、挑戦的にその申し出を受けた。

「では、この水晶球を覗くのだ…」
 催眠の世界へと誘うクラヴィスの声が、辺りに響き渡った。

 

 

 

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