七夕

 

 月に照らされた道をぼんやりと歩く。
 執務が長引きすっかり帰宅が遅れたジュリアスは、早々に帰した馬車を呼び戻すのを止め、久しぶりに夜の聖地を眺める。日のあるうちは人で溢れる庭園にも、夜にはひっそりと噴水の音だけが響いている。
 ジュリアスは噴水の周りをゆっくりと歩き、夜風に混じる水しぶきを顔に感じ、深々と息を吸い込んだ。忙しかった日中の事を思い出しながら、空を見上げる。
「ほう・・・」
 思わず漏れる声。あまりに見事な星空にジュリアスはしばし時を忘れて見入っていた。

 カサリと芝を踏む音に、はっとジュリアスが振り返る。
「・・・そなたか・・・」
 視線の先には長身の影。漆黒の髪が夜風に靡いている。
「こんな時間まで執務か・・・ご苦労なことだな」
 皮肉な口の利き方はいつもの事だが、疲れた身には殊に堪えるようだ。
 ジュリアスは力なく首を振ると噴水の縁に腰を降ろす。
 さすがにクラヴィスも眉を顰める。
 身体の調子でも悪いのかと、しばしの逡巡の後隣に腰掛ける。
 気配に気づいたのか、ジュリアスの金の髪がさらりと揺れた。
「具合が悪いのか?」
 心配気な声音にジュリアスの蒼の瞳が瞠られる。クラヴィスが自分の身を案じている?
「・・・・・・いや、ただ少し疲れただけだ」
 安心させるように、僅かに笑みを乗せジュリアスが言う。
「そうか・・・」
 そのまま立ち去るかと思っていたが、クラヴィスは隣に掛けたまま夜空を見上げている。ジュリアスも同じように夜空を見上げる。
 星が川のように連なって輝いている。夜空を埋め尽くす星々に溜息が零れた。夜空などじっくりと見たのは一体いつ振りなのか、ジュリアスは余裕のない生活に苦笑した。
「・・・いつも」
 思わず漏れた言葉にジュリアス自身驚いたように隣のクラヴィスを見つめる。
「いつも、何だ?」
 クラヴィスの静かな声に促されジュリアスが続ける。
「いつも、このような星空なのか、と。そなたが見ていた空は、このように美しかったのか、と」
 ジュリアスの口唇から紡ぎだされる言葉にクラヴィスは耳を傾ける。ジュリアスの声は常のような刺など含まれず、静かに響く。耳障りのいい声に、クラヴィスも日ごろの確執を忘れ目元を緩める。
「ああ、そういえば今宵は『七夕』だったな」
「七夕?」
 ジュリアスが聞き返す。聞きなれない言葉だった。
「ああ、どこだかの惑星に伝わる伝承らしいが、一年に一度だけしか逢うことの出来ぬ恋人が今宵出会うのだそうだ」
「それが『七夕』?」
「ああ」
「何故一年に一度しか逢えぬのだ?」
 ジュリアスが腑に落ちないと言ったように尋ねる。
「二人があまりにも仲が良く、仕事をせぬようになったからというが・・・耳が痛いな」
 苦笑してみせるクラヴィスに、ジュリアスもつられて笑みを浮かべる。
「仕事をせぬのは感心せぬが、一年に一度とは・・・辛い話だな」
「そうだな・・・」
 遠い目をするクラヴィスを見やり、ジュリアスはまた夜空に目をやる。
「今ごろ二人は共にいるのだろうな・・・」
 ジュリアスの言葉にクラヴィスは、今自分たちも共にいることを意識する。
 ジュリアスも思い至ったのか、慌てて立ち上がり、バツが悪そうに言い捨てる。
「そろそろ戻らねばならぬ、その屋敷の者も心配しているだろうし・・・」
 慌てて言い募るのに、憮然としてクラヴィスも立ち上がり、反対方向に歩いていく。
「・・・・・・っ」
 気を悪くさせたかと、ジュリアスが声を詰まらせる。
 数歩行った所でクラヴィスが振り返り、ぼそりと呟く。
「願いが叶った・・・」
 謎の言葉を残し、漆黒の髪を翻しクラヴィスは元来た道に去っていった。

 取り残されたジュリアスは、クラヴィスの謎の言葉に首を傾げつつ佇んでいた。
 頭上には降り注ぐような天の川が輝いていた。

 

 

 

かき様(BRAND NEW DAY)の会員部屋パス申請の貢物ですが・・・あまりにもあまりにも更新が滞っているので、QUIZというカタチでUPさせていただきました。

気が向いたら、続きをUPするかも・・・という訳で、お手数おかけしました。