聖夜の雫

 傍に寄らずとも見上げねばならない程の大樹。幼き頃より幾ばくかの時が流れても、変わらずそこにあった聖なる夜のシンボル。
 ジュリアスはそっと幹に背を預け、森の先に視線を送る。

 

「待たせたか?」
 程なくして森の切れ目から人影が現れる。澄んだ夜の空気に低く響く声。低音で天鵞絨のような艶のある柔らかな声。そっと瞳を閉じかすかな足音を感じる。
 すぐ目の前に立つ人の体温を感じ首筋がぞわりと震える。樅の緑の匂いに混じり柔らかに纏わりつく白檀の薫り。そっと頬を包まれる体温に瞳を上げると目の前には紫の瞳。
「頬が冷たくなっている・・・待たせたのだな・・・」
 紫の瞳が細められ、そっとその掌を頬から耳に滑らせる。頬より一層冷たい耳を暖めるように暫く包み込んだまま視線を合わせる。
「私が早く来過ぎたのだ・・・そなたが来るのを見ていたかったから」
 そっと告白するジュリアスの口唇を掠めるように盗む。
 小さく吐息を零す口唇にそっと触れるだけの口吻を繰り返し、耳を包んでいた手を背に撫で下ろす。
「昨年の聖誕祭は、そなたが来たのを見れなかった・・・」
 だから、今年は見たかったと、そう呟くジュリアスを強く抱きしめ、クラヴィスはそっとその黄金の髪に貌を埋める。ジュリアスの薫りが胸を満たし、ジュリアスの体温が身体に伝わる。
「そうか・・・」
 昨年の聖誕祭に想いを交わして以来、親交は絶えてはいなかったが、それでも今日という日はどうしてもジュリアスにとって忘れがたく、そして、クラヴィスにとってもそうであった。
 何度言葉を交わし、視線を合わせ、情を交わしても、今日という日を大切にしたかった。初めから終わりまで、心を通じた二人に相応しく過ごしたかった。

 

 そっと身を離し、ジュリアスがくるりと回ってみせる。
「どうだ?」
 純白の毛皮に包まれた肢体をクラヴィスは瞳を細めて眺める。
「思った通り、よく似合っている・・・」
 クラヴィスからの贈り物に身を包み、満足そうにジュリアスが微笑む。純白の衣を纏った天使のような無垢な微笑みにクラヴィスはそっとその姿を瞳の奥に閉じ込める。
「とても軽くて、それに暖かい」
 そっと襟元に頬を寄せジュリアスが囁く。
 昨年は夜着一枚でこの寒空にいたのだったと、ふと思う。クラヴィスの贈り物の意味を理解したジュリアスがはっとしたようにクラヴィスを見つめる。
 僅かに潤んだ紺碧の瞳に軽く頷いて答える。
「クラヴィス・・・」
 純白の毛皮に包まれた手をそっと伸ばす。その手を手繰り寄せるようにクラヴィスに抱き込まれる。そっとその背に手を伸ばし、クラヴィスの肩口に貌を埋める。零れ落ちそうになる涙を堪える為に一層強く貌を押し付ける。
 息を詰めて僅かに身を強張らせているジュリアスに、クラヴィスはそっとその髪を撫でて気持ちを伝える。
 暫くしてジュリアスが静かに貌を上げクラヴィスと視線を合わせる。

 


 抑えきれなかった涙が一雫ゆっくりと頬に零れ、そっと二人の間に消えた。

 

 

 

聖誕祭のその後の二人です。なんだか有り得ないくらいラブラブでちょっと恥ずかしいですね〜。
短いですけど、まあ二人は幸せなんだな〜と思って頂けたらそれで満足です。わりと始まりがコメディータッチだった聖誕祭なので、ここまでシリアスになるのは予想外でした。う〜ん。