ジュリアスの秘密

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 女王謁見の間。
 さすがのジュリアスも控えの間に駆け込むような無作法者ではない。
 いささか金色のうねりに乱れはあるが、上気した頬以外には全力疾走した痕跡は見つけられない。
「まあ、ジュリアス!」
 女王自らのお声掛かりに、深々と頭を垂れ礼をとる。
「恐れながら、少々ご相談したい旨が…」
「ああ!慰安旅行の件でしょう!」
 未だ女王候補時代の言動が抜けきらないアンジェリークに苦笑する。
「そうです。実は…」
「部屋割りの事ね!さすがジュリアスねぇ、さっきオスカーに言ったばかりなのに、もう処理してしまうなんて!」
「は?」
 部屋割り?何のことだ?ジュリアスは小首を傾げて考え込む。
「そうなのよね〜、皆結構相性が複雑でしょう?でも、この際だから。やっぱり親睦を深めてもらいたいのよ。ね?ジュリアスもそう思うでしょう?」
「は?」
「でね、私の案なんだけど、まずゼフェル・ランディ・マルセルは3人一緒で良いのじゃないかしら?」
「はあ…」
「で、ここからが問題なんだけど、リュミエールとオスカーってどうなの?」
「はあ?」
 どう、とは?何の事だ?
「普段からあまり仲が良いようには見えないけど、実際のところはどうなのかしら?」
 オスカーとリュミエール?仲など良いわけがない、と思うが…。しかし…。
「………」
「オスカー・ジュリアス、クラヴィス・リュミエール、ルヴァ・オリヴィエっていう組み合わせは無難なんだけど、ちょっとね今回の趣旨からは外れてるでしょ?」
「……趣旨?」
 一向に話が見えてこないジュリアスは、立ち尽くしたまま首を傾げている。
「だって、親睦を深める為の慰安旅行ですもの!部屋割りは最重要事項よ!」
「……最重要事項…?」
「あら、そのために来たのでしょう?ジュリアス」
 は!そうであった。何の為にここまで全力疾走してきたのか。言わねばならぬ。
「そのことですが、実は私ジュリアスは今回の慰安旅行、ご辞退申し上げたいのですが」
 やっと言えた一言に満足げに女王を見上げたジュリアスは、アンジェリークの表情に固まって二の句が次げなかった。
「……ジュリアス……今のは聞かなかったことにするわ」
 アンジェリークの表情の無い顔は未だかつて見たことがない。
 ジュリアスは、しかし言うべきことは言わねば!と気を取りなおし、それでも些か視線を外しながら口を開いた。
「慰安旅行とやらに皆が出かけている間に、大事が起こるやもしれません」
 ちらりと視線を送ると、硬い表情ながら聞いている様子が伺えた。それに後押しされ、さらに続ける。
「皆は楽しみにしているようなので、ここはこのジュリアスが残り留守居役を…」
「ひどいわ!ジュリアス!!」
 突然床につっぷして、泣き始めるアンジェリーク。
「へ、陛下!!」
 慌てて駆け寄るジュリアスに、イヤイヤと首を振りつつ泣きつづけるアンジェリーク。
「いかがなされました!」
 側に屈み込んでオロオロと声をかける。背に手をやり宥めたいところであるが、ジュリアスにそのような事を期待するほうがバカである。
「陛下、あの、このジュリアス、陛下のためなら何でも致しますので、どうか泣き止んでいただけませんか?」
 心底困り果てた声で言うジュリアスに、アンジェリークも少し泣き声のトーンを落として返事をする。
「…本当ね、何でもしてくれるのね?」
 涙まじりの声にジュリアスは何度も頷き返事をする。
「じゃあ、旅行にも行ってくれるわね?」
 アンジェリークの言葉に息を呑む。
「それ…は…」
「まさか、約束を違えるなんて事はないわよね?信じていいのでしょう?」
 今まで泣いていたとは思えぬほど、キツイ声にジュリアスは項垂れた。
 それを了承と取ったアンジェリークは、涙の後など一筋もない顔を上げ、ジュリアスに微笑みかけた。
「じゃあ、部屋割りが決まったら報告してくださいね」
 ジュリアスは崩れ落ちそうな体を、壁に手をつきながら支え部屋を後にした。

 

 

 

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