「なに?どういうことだ?」
ジュリアスの声がひんやりと冷えた地下の空気に響く。
「だから、男が服を贈ると言う事は、それを脱がせる目的があるということだ」
知らなかったのか?
そう片眉を上げ聞いてくるカティスに、ジュリアスは小首を傾げて伺う。
「今年はお前も20歳だしな、誰かがそんな気を起こすかも知れないな」
面白そうに笑うカティスを、ジュリアスはただただ呆然と見つめる。
ぼんやりと口を開けたままカティスを見やるジュリアスに、嗜虐心が刺激される。
「そう言えば、クラヴィスが服を取り寄せたと聞いたが、もしかして・・・」
ニヤリと笑いこちらに一歩近づくカティスに、ジュリアスが一層狼狽して後退る。左右を見やるが何分狭いワイン蔵だ、其処此処にワインの瓶が突き出している。
「な、何なのだ?そのように、下卑た笑いをするな!」
これ以上下がれない所まで追い詰められ、ジュリアスは叫ぶ。クラヴィスの名に過剰反応をするのは常の事だった。カティスは事あるごとにジュリアスをからかい遊んでいた。
「何なら、俺が予習をしてやろうか?ん?」
ますます調子付くカティスに、ついにジュリアスが切れて掴み掛かる。
カティスの胸倉を掴んだ途端に、足元が滑る。
「ジュリアス!」
カティスの声と同時に、後頭部に鈍い痛みが走った。
「そうか・・・」
クラヴィスが納得した様子で何度も頷く。
ジュリアスがワイン蔵で倒れるまでの会話を思い出しつつクラヴィスに伝えた。
「カティスがあのようにふざける故、このような目に合ったのだ!」
記憶喪失などという厄介な目に合ったのも、要は5年前の事が遠因だった。
「ふむ、それにしても、何故5年前の宴では素知らぬ風であったのだろうな・・・」
考え込むようにクラヴィスが呟く。
5年前の時にも実は記憶が失われていたとは考えられないか?
もしかしたら、カティスとの直前の会話、それ自体が丸々失われていたとしたら・・・。
そして、今回の事で5年分の記憶は失われたが、変わりにあの会話の記憶が甦ったのではないか?
クラヴィスが訥々と語る言葉にジュリアスは感服する。もしクラヴィスの言ったとおりだとしたら、今のこの状態が全て矛盾なく受け入れられる。
「そうだったのか・・・」
ジュリアスが蒼の瞳に感心の色を浮かべクラヴィスを見つめる。
面映い思いでクラヴィスも視線を合わせる。
かつてこれほどジュリアスの関心を引いた事があったであろうか・・・。
「まあ、ただの憶測だがな・・・」
謙遜したように言葉を早めるクラヴィスに、ジュリアスが目を細める。
クラヴィスのこのような姿は一体いつ見たきりだったか。幼い頃は幾度も見ていたように思う。
いつもいつも不遜な態度で嫌味なほどに余裕を見せるクラヴィス。声を荒げ叱責を繰り返す自分。きっとこの5年でも変わらず繰り返されていたのではないか・・・。
少し違うだけでこのように空気が柔らかいものを・・・。
ジュリアスは心地良い沈黙を噛み締めるような思いで感じていた。