覚醒

 

 早々に邸に戻ってきたジュリアスは、何かあったのかと心配気な執事らを下がらせ、自室に引きこもっていた。

 確かに変な物ではないが…。
 箱を開けぼんやりと中身を眺める。
 純白の絹が灯りに照らされ、柔らかな光沢を見せている。胸元から斜めに百合の花の透かし模様と刺繍が走り、裾に行くほど布地よりも透かしが大きくなっている。一目で最高級品であると知れる。表面を撫でてみると驚く程すべらかな手触り、着心地もさぞや素晴らしいことだろう。
 しかし、何故よりにもよってクラヴィスが自分にコレを贈るのか・・・。
 もしかしたら、自分とクラヴィスの関係はこの5年で驚くべき変化を遂げていたのだろうか?だとしたら、私は一体どうしたら良いのか・・・。


「よい品であろう?」
 突然の声に驚いて立ちあがる。
「な!そなた、何故?」
 ジュリアスが取り乱して叫ぶ。翻る黄金の髪に見開かれた蒼い瞳、叫びを上げたままの口唇。
 ほの暗い部屋に、影のように侵入してきた人物を見つめる。
「着てみせてはくれぬのか?」
 楽しげな口調の侵入者は眩い金の光に目を眇め、ジュリアスをゆっくりと視線で辿る。
「素晴らしい光沢、羽を纏うかのような肌触り、全てに於いて最上の品だ」
 そう言って箱に手を伸ばす。
「ク、クラヴィス・・・」
 ジュリアスがため息のような細い声を漏らす。
 クラヴィスのその白く長い指先が滑る様に頬が赤らむ。まるで、それを身に纏った上から愛撫をされているかのような錯覚に陥り頬に血が上る。
「お前に似合うと思ったのだがな・・・」
 箱の中身を取り出しジュリアスに向けて見せる。
 純白の絹が灯りに照らされ、柔らかな光沢を見せている。クラヴィスの言う通り最高級の品―夜着―であるらしい。
「それにしても、何故分かったのだろうな…」
「どういうことだ?」
「夜着を送ったのは今回が初めてではない…」
「え?」
 クラヴィスの言葉に思わず驚きの声を漏らしてしまう。
「あれは、そうだ…な、最初は20歳の生誕日だった・・・。お前は全く何の反応もしなかった・・・今回のような反応を期待していたのだがな」
 クラヴィスの言葉に首を捻る。
「どういうことだ?」
「どういうも何も、ただお前は中身を一瞥して『ああ、ありがとう、是非使わせてもらう』などと涼しい顔で言ってきたのだ・・・」
 そんなことがあるだろうか・・・。ジュリアスは腑に落ちないようにクラヴィスを見つめる。
「それにしても、以前は何の反応も示さなかったものを、何故今になって突然・・・」
 クラヴィスこそ不思議そうに尋ねてくる。
「そう言われても・・・以前の事は・・・」
 ジュリアスも記憶にない事を言われ、瞳に困惑の色を浮かべ答える。
「一体いつ知ったのだ?この贈り物の意味を」
「・・・カティスが」
 思わぬ人物の名を口にするジュリアスに、僅かにその紫の瞳を見開くクラヴィス。
「そうだ!カティスがあのような話をするから、こんな事に!」
 突然憤りだしたジュリアスに、クラヴィスは何事かとそのまま様子を伺うしかなかった。