ジュリアスの秘密

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 ジュリアスの悩みは深い。日本海溝のように、いや、マリアナ海溝のように、とにかくそれはもう果てしなく深いのである。
 私邸に戻るが一向に悩みは去らない。ただハッキリしていることは、もうジュリアスには慰安旅行に行くほか選択肢はないということである。陛下は決して折れることはないだろうし、ジュリアスにしても逆らうことなど出来ようはずがない。
 と言うことは、だ、うじうじ悩んでいても仕方がない。ジュリアスは基本的に立ち直りが早い、そうなったら早速建設的に対処法を考えねばならない。
「リカルドはいないか?」
 ジュリアスは家令に向かい、もっとも信頼している年若の執事の名を言った。


「お呼びでしょうか、ジュリアス様」
 年はジュリアスと変わらぬ程の、一見良家の子息風の青年がやんわりと腰を折り礼をとる。銀髪は後ろに流され、見事な曲線を描く額に一筋垂れかかっているのが、また何とも艶めいている。ジュリアスに付き従う姿は、一幅の宗教画のように壮麗である。


「そなたに折り入って頼みたい事があるのだ」
 幼き頃より、聖地で共に暮らしてきたリカルドには、他の者に対するよりも幾分親しげな様子を隠せない。
 ジュリアスが聖地に上がり正式に光の守護聖とし女王に仕えるようになった頃、主星の生家より、側仕えとして来たのがリカルドであった。始めは遊び相手として、今やもう彼なしでは光の邸は1日も立ち行かぬほどになっている。


 ジュリアスのいつにない悲壮な表情に、リカルドは眉を顰める。一体何が起こったというのだろうか…。
「来週の月の曜日から、慰安旅行という物に行かねばならぬのだ…」
 ジュリアスの表情が一層曇る。縋るように見つめてくる紺碧の瞳は、僅かに潤んでいるように見える。
 リカルドは一瞬で理解し、ジュリアスの心中を思い、深く嘆息した。

 

 

 そして、ついに月の曜日が来てしまった。
 聖地の門に集合する守護聖の面々。
 年少組に始まり、オスカー、オリヴィエ。少し遅れてルヴァかやってきた。
「あ〜皆さん〜お待たせしたようで…旅行に持っていく本がですね〜中々決まりませんでね〜昨日は徹夜だったんですよ〜」
 赤い目の理由はそれだったのか、と皆が肩を竦めていると、そこにリュミエールの姿が現れた。
「すみません。遅れてしまいましたか?」
 うんざりしたような皆の様子に、首を傾げながら問うが、一人ニコニコと本の話をしているルヴァを見て、また首を傾げる。
「まだ、待ち合わせの時間になってないわよ、リュミちゃん☆」
 オリヴィエが大量の荷物に腰掛けながら答えた。
「その荷物全部持っていくのか?」
 オスカーがうんざりとしてオリヴィエに向かって言った。
「決まってるでしょ!」
 だって、宿についてからの服でしょ〜食事の時の服でしょ〜、赤く染められた爪を指折り数えながら、荷物の説明をするオリヴィエに、その荷物全部服なのか…とうんざりするオスカー。
 聖地の門が何時になくにぎやかな時を過ごすことになった。


「遅いな…」
 オスカーの呟きに、リュミエールが応じる。
「さっき執事に急かすように言っておいたんですけど…」
 クラヴィスの私邸に寄っていて、遅くなったリュミエールは心配げに道の先を見やる。
「いや、クラヴィス様もそうなんだが、ジュリアス様がな…」
「あ!そう言えば、来てないわね〜めっずらし〜」
 オリヴィエの言葉に年少組も頷く。
「ジュリアスのヤロー行きたくねーとか、ごねてんじゃねーの?」
 ゼフェルの言葉に、ルヴァが慌ててとりなす。
「ゼフェルも心配なんですよね〜優しい子ですね〜」
 ルヴァの言葉に、ゲッと顔をしかめるゼフェル。
 だが、皆も不思議に感じていた。何時も何をするでも一番に来ていそうなジュリアスである。まだ、約束の時間には間があるが、それにしても遅い様に思える。
 オスカーが何かあったのではないか。と迎えに行こうとすると、向こうから馬車がやってきた。

 

 

 

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