「クラヴィス…その自分で出来る故…」
ジュリアスが身をよじり、申し訳なさそうに言う。
「…シャワーも満足に出せぬお前が、一人で洗えるのか?」
意地悪な言い方だとは思ったが、本当のことだから致し方ない。
見る見る内にしゅんとしてしまったジュリアスに、可哀想だとは思うが、大人しくしているのを幸いに、ここぞとばかりに柔らかい金の髪の手触りを楽しむ。
クラヴィスの邪な想いは、しっかり感づかれたようで、背後に不穏な空気を察して振り向くと、案の定オスカーが立っていた。
「クラヴィス様、お疲れのようですから代わりましょう」
オスカーの丁寧な口調とは裏腹な、愛想の欠片もない声音にジュリアスがびくりと顔を上げた。
「別に疲れてはいないが?」
対するクラヴィスの声音も、甘さの欠片もない低音だった。
「あ、いや、もう自分で洗う故・・・」
慌ててジュリアスが言い募るのに、無言でクラヴィスが手を動かしはじめる。
「あ、痛・・・」
額から一筋垂れた雫が目に入ったらしく、ジュリアスが小さく呻く。
「!大丈夫か?」
クラヴィスがすぐさまシャワーの湯で洗い流し始める。
「あ、ああ、大丈夫だ、少し沁みただけだ・・・」
幾度か瞬きを繰り返しクラヴィスを見上げる瞳は紅く潤み痛々しい。
「クラヴィス様!代わります!」
オスカーが一刻の猶予もないといった風に、急き込んで言う。
クラヴィスもミスをした後ではあまり強く拒否も出来ない。ぐずぐずとどかないでいると、オスカーが苛立ったように、肩に手を掛けてきた。実力行使といったところか・・・。
「ジュリアス、もう私に洗われるのは嫌か?」
クラヴィスの問いにジュリアスが困惑気に視線を合わせてくる。
「もちろん嫌ですよね!ジュリアス様!」
オスカーが声を張るのに、驚いてクラヴィスからオスカーへと視線を移すジュリアス。
「オスカー・・・そなた何を怒っているのだ?」
濡れた髪を身体に纏いつかせ、全身を桃色に色づかせたジュリアスが小首を傾げてじっと見つめている。
「お、怒ってなどいません。ですが、お嫌ならはっきり仰らないと・・・」
オスカーがうろたえたように、視線を外し言うのを不思議そうにジュリアスは見やり、またクラヴィスへと視線を戻す。
「私は・・・嫌ではない。それよりも、その、世話を掛けて、すまないと思っている」
ジュリアスの視線が自分に戻ったことで気を良くしたクラヴィスは、ちらりとオスカーを振り返り片頬を上げてみせる。
「私が好きでやっていることだ、気にするな・・・」
クラヴィスがジュリアスの額に垂れかかった一筋の金髪を後ろに撫で付けながら言う。身体に掛かった髪も後ろへと流し、紅くなってしまった蒼の瞳を覗き込む。
「眼は大丈夫か?」
頷くジュリアス。
「ちょっと〜何なの〜?」
呆れたようにオリヴィエが声を上げる。
「あ〜その〜何が何なのか、分かりませんが〜仲良くしませんか〜?」
続いてルヴァの声がかかる。
「あの、何がお手伝いいたしましょうか?」
リュミエールまでも困惑気に声を掛けてくる。
「何やってるんですか?」
さわやかにランディも登場した。
「何かあったんですか?」
「ま〜たもめてんのかよ!」
マルセル、ゼフェルも続き、守護聖が勢ぞろいした。
「って、アレ?クラヴィスとジュリアスがもめてんじゃねーのか?」
ゼフェルが仲良く並んでいる二人を見て首をかしげている。
「な、何なのだ?皆そろって・・・」
ジュリアスが怯えたように声を震わせる。
皆に見下ろされる形になったジュリアスは、異様な圧迫感と纏わりつく視線に居心地悪そうにクラヴィスの影に隠れようと、身を捩る。
「何だかもめてるみたいだったからさ〜、心配になって来たんじゃない」
オリヴィエはそう言いながらも、視線はジュリアスから一瞬も離れない。
白く傷ひとつない身体は、上気した桃色が艶めかしく、見る者を決して離さない呪力があるように思える。オリヴィエはエステの必要のない本当の美の前に圧倒され、ただただ感嘆の思いで見つめていた。
「何ももめてなどいない。だから安心して向こうに行くが良い」
クラヴィスが些か不機嫌そうに言う。
その紫の瞳が一同を黙らせる強さをもって見つめてくるのに、皆言葉もなく湯船の方へと去っていった。
「ね〜え〜ジュリアス〜?私に身体洗わせてくんない?」
オリヴィエがクラヴィスの瞳を完全無視して問いかける。
「え・・・何を・・・」
戸惑ったようにジュリアスが言葉を呑む。
「ダメだ。そうだな?ジュリアス」
クラヴィスが勝手に返事をするが、何だかオリヴィエも気持ち悪いし、クラヴィスも怖いので何度も頷くジュリアス。
「何でアンタが返事すんのよ〜ちょっとくらい触らせてよ〜」
尚も言い募るオリヴィエに、ジュリアスはますます不穏なものを感じて身を強張らせる。
「ジュリアス様!俺に洗わせてください!!」
まだ去っていなかったオスカーがオリヴィエを押しのけジュリアスに迫る。
「な、何なのだ?そなた達」
ジュリアスは暖かい浴室の中で寒さに震えるように、身を掻き抱いたまま何度も首を横に振る。
「嫌がっているではないか、もう去らぬか!」
クラヴィスの一喝にさすがのオリヴィエも慌ててオスカーを引っ張って浴槽の方へと消えた。