ジュリアスの秘密

12


 

 背後にサラリと何かが垂れかかる感触がした途端、視界が一変した。右半身が温かいモノに押しつけられる。
「夕食までにはまだ間があったな…」
 ここにいるはずのない声に驚いて、身体を硬直させる。
「クラヴィス様!」
 オスカーの声が呼び水となって、ジュリアスはばたばたと四肢を暴れさせる。何故だかクラヴィスに抱き上げられているようだった。
「落とされたいのか?」
 クラヴィスの声が怖いくらい耳元で響き、驚きに硬直する。実際この床に叩きつけられるのは怖い。
「・・・・・・そなた何処にいたのだ?」
 呆れて、何処かにいってしまったと思っていたのに・・・。ジュリアスは恐る恐る瞳を上げてクラヴィスの顔を伺う。
「ずっとここにいたが?」
 ではずっと背後に立っていたということなのだろうか?クラヴィスを探して視線を巡らす自分を全て見られていたというのか?
 全身がかっと熱くなり、ジュリアスはぎゅっと瞳を閉じた。それと同時に僅かに強く抱き寄せられ、右頬がクラヴィス胸板に押し付けられる。浴衣一枚越しにクラヴィスの体温が伝わる。風呂上りのせいか、熱く感じた。
「クラヴィス様!」
 オスカーの上ずった声が聞こえ、すっかり身を任せていたジュリアスの身体に緊張が走る。
「・・・・・・なんだ?」
「ジュリアス様をどうされるおつもりなんですか?」
 詰問するオスカーの声に空気が凍る。
「あ、あ〜さてっと、マルセル、ランディ、ゼフェル〜とりあえず、食事まで自由にしていていいですよ〜」
 二人の間に走る緊張を破るかのように、ルヴァが唐突に話し出す。
「え、あ、でもジュリアス様が・・・」
 マルセルが気がかりそうに言う。
「あ〜ジュリアスの事は大丈夫ですよ〜クラヴィスもいますし〜オスカーもいますし〜」
「そうですね!オスカー様なら大丈夫さ!」
 ランディが場を弁えぬ明るさで言うのに、ゼフェルが呆れたように続く。
「ちっ、ジュリアスなんか殺しても死なネエから大丈夫だっつーの、行こうぜ」
 失礼だぞ!とか何だとかランディとマルセルの声と共に3人が去っていった。
「あのさ〜アンタ達?ジュリアスをどうするつもりなのさ?」
 オリヴィエの呆れかえった声が聞こえた。腰に手を当て、軽く二人を睨み付ける。
「そうです!ジュリアス様を降ろしてください」
 オリヴィエの視線をやり過ごし、オスカーが再びクラヴィスに食ってかかる。
「クラヴィス?その、降ろして欲しいのだが・・・」
 ジュリアスも周りを気にしながら言うのに、クラヴィスがゆるりと視線を落とす。
「湯当たりしたのだろう?部屋に戻って少し休んだほうがいい」
「もしかしてそのまま行かれるおつもりですか?」
 リュミエールがクラヴィスに問い掛ける。
「ああ、そのつもりだが?」
「な!そなた!」
 ジュリアスが蒼の瞳を見開きクラヴィスを見上げる。その瞳に視線を合わせクラヴィスはジュリアスを抱えなおす。
「まあ、どうにかなるだろう・・・少なくとも落とす前には言うから安心しろ・・・」
 クラヴィスが冗談めかして言うのに、ジュリアスは驚きを隠せぬように何度も瞬きをくりかえした。わずかに口唇の端が上がっているのは見間違いだろうか?ジュリアスは見慣れぬクラヴィスの表情に動悸が激しくなるのを感じた。
「それでしたら、俺が!」
「さ、ジュリアス行くぞ?」
 オスカーを全く無視したまま歩き出すクラヴィス。
 ジュリアスが歩く振動に落とされまいと浴衣の胸元をきゅっと握り締める。
「首に手を回したらどうだ?そのほうが安定するだろう・・・」
 クラヴィスの言葉が終わらぬうちに、ジュリアスの白い腕がそっとその首に回された。

 

 

 

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