部屋の前まで、どうにかたどり着いたが、ぼんやりと身を任せたままのジュリアスはクラヴィスの胸元に頬をすり寄せ、うっとりと瞳を閉じていた。
「ジュリアス?」
クラヴィスの声にはっと瞳を開き周囲を伺う。自分達の部屋の引き戸を確認し慌てて口を開く。
「あ、すまぬ、もう着いたのだな・・・」
ジュリアスが首から腕を外し、そのまま下りようと身を捩る。
「引き戸を開けてくれぬか?」
クラヴィスがやんわりと言うのに、ジュリアスが顔を上げそのままもう一度下りると言う。
「ここまで来たのだ、あと少しばかり抱いていたところで変わらぬ」
クラヴィスの瞳に促され、腕を伸ばし引き戸をそっと開けた。
隙間からクラヴィスが足先を入れ、大きく開く。粗野な仕草にジュリアスは驚いたまま、クラヴィスの腕に抱かれ部屋に入ることになった。
部屋の中は出て行った時とは違い、奥の座敷に布団が二組敷かれていた。
そっとその上に抱き下ろされ、ジュリアスは慌てて半身を起こそうとする。
「寝ていろ」
両肩を押さえられ、ジュリアスは身を起こすに起こせず、困惑した瞳をクラヴィスに向ける。
「湯当たりは休まねば治らぬぞ?」
「湯当たりなど・・・していない」
ジュリアスの言葉にクラヴィスが少なからず驚いたように、言葉を飲み、そして呟く。
「・・・そうか」
クラヴィスは呆れてしまっただろうか・・・、ジュリアスはクラヴィスがそれ以上何も聞かないことを不安に思い、恐る恐る顔色を伺う。
きっと呆れうんざりとした表情で外方を向いているだろうと思っていたが、予想に反して紫の瞳は真摯な色を浮かべこちらを見つめていた。
ジュリアスは動悸が高鳴り、耳がじんと熱くなるのが分かった。シーツのひんやりとした冷たさと耳の熱さが相俟って、グラグラと気持ちが揺れ動いた。
半身を起こしつつクラヴィスを見やる。今度は止められることなく起きあがることができた。
ジュリアスは居住まいを正し、クラヴィスに向かい瞳を合わせた。
深呼吸して徐に口を開く。
「その、確かめたいのだが・・・」
緊張に強張る表情に、ジュリアスの真剣さがよく分かる。
クラヴィスに異存がないのを目で確認し、続ける。
「そなた、呆れているのだろう?」
探るように言い募るジュリアスの表情に、不謹慎にも見とれてしまう。
「何も出来ぬし、世話ばかりかかって・・・迷惑なのだろう?」
ジュリアスの青ざめ、自信の欠片もないその表情は、酷く幼く頼りない。聖地にあってのジュリアスとは、全くの別人のように、儚く消え入りそうにも見える。
クラヴィスは答えることも忘れ、ただただその表情に魅入っていた。
布団の上に置かれたジュリアスの手が、微かに震えを帯びている。
クラヴィスの答えが返ってこないことに、ジュリアスは肯定の意思を読み取った。
「め・・・迷惑だったのだな・・・すまぬ・・・」
萎れた花のように、がっくりと首を落とし、項垂れたジュリアスにクラヴィスがはっと目を瞠る。
「・・・やはり、旅行になど来てはいけなかったのだ・・・な・・・」
シーツをぎゅっと握り、痛みに耐えるような声音でジュリアスが言葉を紡ぐ。
これ以上嫌われるのには耐えられない・・・ジュリアスはそう思い、更に言葉を次いだ。
「オスカーを呼んでくれぬか?」
ジュリアスの言葉と同時に、引き戸の外から声が掛かった。