ジュリアスの秘密

16


 

 部屋を換わるにしても、一旦は戻らねばならぬ。荷物も片付けねばならぬし、クラヴィスにも…。
 ジュリアスは部屋の前で逡巡しながら、どうにも扉に手を掛けられずにいた。
 
「ジュリアス?」
 目の前の扉がさっと開かれ、クラヴィスが現われる。
「何をしている?」
 訝しげに続けられる言葉に、ジュリアスは中を伺いつつ言葉を紡ぐ。
「荷物を取りにきたのだが…」
「荷物?何処に行くつもりだ?」
「何処って…それより、そなた身体は?寝ていなくとも良いのか?」
 気分が悪いと言っていた筈だが、然程辛そうにも見えない。
「寝る?」
「そうだ、気分が悪いと言っていたではないか」
 ジュリアスに言われ合点がいく。
「ああ、言ったが、それはそういう意味ではないのだがな…」
 自嘲気味に続けられる言葉に、ジュリアスは形のよい眉を顰める。謎掛けのような話し方はいつものことだが、こんな時までそのように話す必要なないと思う。
「どういう意味だ?」
 思わず詰問口調になるジュリアスに聖地での日常が重なる。
「まあ、とりあえず中に入ってからで良いのではないか?」
 肩に腕を回され、部屋の中に強引に促される。
 そう言えば、リュミエールはどうしたのだろう…。ジュリアスは不思議に思いつつ部屋に足を踏み入れた。

「リュミエールが見えないようだが…」
 困惑しきった表情でクラヴィスを振り返る。座敷に水色の髪の主を探すが見当たらない。
「ああ、別に何ともないから帰らせたが?何か用でもあったのか?」
「部屋を換わると・・・」
 そういう約束になっていたのだが・・・。ジュリアスが続けて言う。
「私と同室なのが、それほど嫌なのか?」
「え?」
 静かな話し方にも怒りが伺える。背筋が震えるのを感じジュリアスは口篭もった。
 クラヴィスの紫の瞳に怒りの色が見えるのは気のせいだろうか。
「だが、リュミエールと換わるのなら、オスカーとは同室にはなれぬぞ?」
 リュミエールの同室者はマルセルだ。確かにオスカーとは同室にはなれないが・・・。
 ジュリアスは尚も困惑気にクラヴィスを見返す。何をそのように憤るのか皆目見当がつかない。
「それとも、私以外なら誰でもいいと、そういうことか…」
 クラヴィスの言わんとすることが理解できず、ジュリアスは考え込んでしまう。
 視線を合わせることも出来ず、部屋の中を見回すと、先ほどクラヴィスが敷いた蒲団の傍にもう一組寄り添うように並べて蒲団が敷かれていた。
 他人と枕を並べるなど、終ぞ経験したことのないジュリアスである。不思議な光景に魅せられたように視線が縫いとめられる。
 クラヴィスは、ジュリアスの視線の先に並べて敷かれた蒲団を見た。
「お前には不愉快なことであろうな・・・」
 そう呟きながら、クラヴィスが片方の蒲団を引きずって離そうと動く。
「あ!」
 ジュリアスの驚きの声に、クラヴィスの手が止まる。
 咄嗟にクラヴィスの手を押さえるジュリアス。
「ジュリアス?」

 

 

 

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