「へ?」
ルヴァの間抜けた声が部屋に響く。
「・・・・・・どういう意味だ?」
常よりも些か不機嫌そうな声音でクラヴィスが問う。
「・・・いや、ちょっといいか?」
ジュリアスがクラヴィスの問いに、戸惑いつつ答える。そっと伸ばされたジュリアスの指に促されクラヴィスが顔を寄せる。
至近距離で顔の隅々を眺められ、居心地悪げに紫の瞳が反らされる。
ルヴァもオスカーも固唾を飲んで二人の姿を見守る。ジュリアスの意図がわからないながらも、邪魔をしてはいけないと思ったらしい。
「ふむ・・・やはり、思い過ごしではないようだな・・・」
ジュリアスが小さく呟く。
「ええっと、ジュリアス?意味が全然分からないんですが〜」
少なからずジュリアスの『老けた』発言にショックを覚えていたルヴァは、説明を求める。
「いや、そなたたちが、その老け・・・いや、年をとったように感じたのだが、間違っていないようだ・・・何があったのだ?」
ジュリアスの説明と問いに、クラヴィスとルヴァがお互いの顔を見合わせる。繁々と互いの顔の変化を探るが、いつもと変わらないように思える。オスカーも不思議そうに二人の顔を見る。何も変わったところは発見できない。
「ジュリアス様?倒れられたショックで眼がどうにかなったのでは?」
心配そうにオスカーが尋ねる。
すっかり日も暮れ、部屋にはセンサーで自動に灯りが燈されていた。
「?そなたは・・・誰だ?」
不審そうにジュリアスに見られ、オスカーが一瞬たじろぐ。
「ジュリアス様・・・?ご冗談を・・・」
オスカーの縋るようなアイスブルーの瞳がジュリアスに向けられる。
―――この紅い髪の青年は誰なのだろうか?
ジュリアスは親しげに自分の名を呼ぶ青年に、どう答えていいのか分からず戸惑った瞳をクラヴィスに向ける。
「ジュリアス・・・」
「ジュリアス、オスカーですよ?分からないんですか?」
ルヴァも戸惑いつつジュリアスに尋ねる。
視線を彷徨わせ混乱した頭を整理するように、幾度か首を左右に振る。
「・・・・・・知らぬ、オスカーという名も、その者も・・・」
呟く声が不安に震える。何か自分の気づかぬ所で世界が変わってしまったかのように感じる。
「そなた達もなぜ、さっきまでの姿と違うのだ?皆で私を謀るつもりか?何かの余興なのか?」
そんな筈がないとは思うが、不安に苛まれてジュリアスは言葉を止められない。皆がグルになって何か企んでいるとしか説明がつかない。
「その者は何者なのだ?オスカーなどという名は知らぬ!何故私にこのような・・・」
ジュリアスがシーツを握り締め叫ぶ。不安に耐え切れず声と共に身体も目に見えて震え出す。
「ジュリアス、落ち着け」
クラヴィスが肩に手を置き、ジュリアスを正気づかせようと力を込める。
「とりあえず、横になれ」
そっと肩を押し寝台に横たえる。
「分からぬ・・・分からぬ・・・」
小さくジュリアスが呟きながら、クラヴィスのサクリアによって強制的に眠りへと誘われた。
「どうしたんでしょうか・・・」
ルヴァがジュリアスの顔を覗き込みながら呟く。
オスカーは呆然としたまま座り込んでいる。
クラヴィスも無言でルヴァを見返す。
「研究院で診てもらったほうがいいですかね・・・」
ルヴァが黙っている事の方が不安を感じるのか、一人で話続ける。
「頭をひどく打ったせいかもしれませんねぇ」
クラヴィスが乱れてしまったジュリアスの髪を梳き上げてやりながら、ふと言葉を漏らす。
「そう言えば・・・以前このようなことがなかったか?」
クラヴィスの言葉にルヴァがはっとして振り返る。
「ああ!そういえば・・・ええっとあれは、いつでしたっけ・・・カティスのワイン蔵で・・・」
「ああ、5年ほどになるか?ちょうど今ごろではなかったか?」
「あ、ええ!そうですそうです。ちょうどジュリアスの生誕日間近でしたねぇ」
クラヴィスとルヴァが次々に思い出す話は、オスカーにとっては初耳なことばかりで、混乱したままぼんやりと視線を向けている。
「あの時は半日目覚めなかったが・・・特に何事もなかった・・・」
クラヴィスがルヴァから視線を戻し、ジュリアスの青ざめた頬に手を添わせる。
「・・・えぇ。そうでした」
ルヴァが部屋をうろつきながら、上の空で答える。しきりに揉み手をして何事か呟いている。
ジュリアスの言葉と、以前の事件を思い合わせ、ふと疑問の鍵が見つかりそうな感じがルヴァを支配する。こうなってはもう、いてもたってもいられない。
「クラヴィス、その、もしかしたら疑問が解けるかもしれません・・・」
ルヴァの身体はそわそわと扉の方へと歩き始めている。
クラヴィスは何かつかんだ様子のルヴァに頷き、外へと促した。