覚醒

 

「ふむ・・・問題ないようだな、ではこれを研究院へ」
 金の髪を煩げにかきあげながら指示を出す。
「ジュリアス様、この惑星ローグィンの件は調査済です、報告書は・・・オリヴィエですね・・・」
 オスカーが書類を捲りながら報告をしている。常と変わらぬ光の執務室の光景に、オリヴィエは扉を開けたまま二の足を踏んでいた。
「・・・ジュリアス?報告書持ってきたんだけど?」
 オリヴィエの声にジュリアスが顔を上げる。
「・・・オリヴィエ、ノックをせぬか」
 ジュリアスの軽い叱責を受ける。
「ジュリアス・・・アンタ記憶戻ったの?」
 恐る恐る問い掛けるが答えは無情なものだった。
「いや?戻ってはおらぬ」
「でもさ〜いつもと全然変わらないんだけど・・・」
「ああ、執務自体には慣れているからな・・・後は現在までの状況が分かれば何ということもない」
 淡々と返される返事に、オリヴィエは報告書を提出してそそくさと退室した。

 


「も〜何だかさ〜記憶喪失っていっても全然変わんないんだもん。調子狂っちゃうわよ〜」
 オリヴィエは報告書を提出したその足でルヴァの執務室に駆け込んでいた。
「ま〜何といってもジュリアスですしね〜彼は昔からあまり変わりませんから・・・」
 ルヴァは出会ったころのジュリアスを思い出し、薄く笑みを浮かべる。当時から大人びた少年だった。
「それにしてもさ〜何で昨日の今日で、もう執務してるのさ!」
 仕事の鬼といえばそれまでだが、どうにも解せない。
「きっと彼も戸惑ってはいるんだと思いますよ〜、ただ責任感の強い人ですからね〜」
 ルヴァは今朝の検査の結果を睨み付けながらも、のんびりと答える。
「で?結果はどうなの?」
 ルヴァの手元の用紙を覗き込みながら問う。
「ええ、概ね問題はないですね・・・ちょっと過労気味ですかね〜」
「ん〜じゃあ記憶喪失以外はいつも通りって事?」
「そうですね〜ん〜とりあえず当面は様子を伺うしかありませんね〜」
 ルヴァがのんびりと書類をしまいながら答える。
 二人が我知らずため息をついた時に、ふとノックの音が聞こえた。
「どうぞ?」
 ルヴァの声に促され扉が開く。
黒い影がぬっと現れる。
「クラヴィスですか〜何です?」
「ああ、あれの生誕日の宴の件でな・・・」
 クラヴィスがオリヴィエの横に腰掛けながらうっそりと言う。
「そうでした〜あ〜進んでますか?」
「・・・進んでいるのではないか?毎年の事だ・・・間違いもあるまい」
 気のない答えに呆れたようにオリヴィエが視線を向ける。
「ちょっと、クラヴィス?アンタそんな調子でプレゼントはちゃんと手配してるの?」
 髪を弄びながらオリヴィエが問い掛ける。
「・・・フ・・・」
 クラヴィスの自嘲したような笑いが、オリヴィエの関心を惹く。
「何々?何なのよ〜〜」
 身を乗り出すように問い掛けるオリヴィエに、クラヴィスはいささか疲れたように答える。
「・・・何でもない」
 苦笑で答えるクラヴィスにオリヴィエが更に詰め寄るが、答えずにはぐらかす。
「あ〜そういえば明日ですね〜ジュリアスにとっては20歳なんですがね〜複雑ですね〜」
 ルヴァの言葉に二人は同意を示したように頷いた。

 

――――生誕日当日
「ジュリアス様おめでとうございます」
 皆の声にジュリアスがはにかんだように頷く。その表情は20歳のジュリアスが垣間見えた。
「ジュリアス、おめでとう」
 アンジェリークにも祝われ、膝まづきながらも戸惑ったように頭を垂れる。
 その姿を見やり、数時間前の取り乱したジュリアスを思い出す。
 女王が自ら主催し、その上宴にも出席すると聞きジュリアスが蒼白になり辞退すると言い張ったのだった。この5年間の記憶のないジュリアスには、到底受け入れがたい異常事態であった。卒倒せんばかりのジュリアスを何とか宥め、どうにかこうして宴は開催された。

「ほぉ、見事な物だ・・・ありがとうマルセル」
 心底嬉しそうな声に、マルセルの頬が薔薇色に染まる。ジュリアスの手にある見事な薔薇に贈った本人見とれる。
「カティス様の交配していた株が今年花をつけたんです!白薔薇なんですが、縁が少し青味掛かっていて、すごく綺麗でしょ?ちなみに名前は【ジュリアス】なんですよ!!」
 興奮したように語るマルセルに皆も驚いたように聞き入る。
「私の名が?」
「そうなんです、カティス様が僕に引き継いで行かれたんです・・・」
 少ししんみりとした声でマルセルが微笑む。
「そうか・・・二人からの贈り物なのだな・・・」
 ジュリアスも感慨深く薔薇を見つめる。今のジュリアスにとってはカティスは過去の人間ではなく今も存在してるかのように感じているのだ。
 皆がそんなジュリアスの様子を静かに見守る。
「・・・ジュリアス、これが私からだ・・・」
 ジュリアスが薔薇を傍の人間に渡し、クラヴィスからの贈り物を受け取る。薄型の四角い白い箱に何が入っているのか、皆が興味津々で見守る。この仲の悪い二人の間で、一体何を贈るのか。
「・・・!!」
 箱をそうっとあけたジュリアスがものすごい勢いで蓋を閉める。
 顔から首筋から耳に至るまで真っ赤に染まっている。
 只ならぬジュリアスの様子に皆が詰め寄る。
「何?何なの!?」
「ジュリアス様!!」
「ジュリアス〜?」
 阿鼻叫喚。
 一体箱の中身は・・・。