はらはらと零れ落ちる泪を、その儚くも美しい様にオスカーは只々感歎し見惚れていた。
それがクラヴィスによって引き出された美であることは、分かってはいた。
しかし、今は少しでも長くその姿を記憶に留めていたいと、慰める事さえ忘れ貪るように見つめていた。
「・・・っく、オ、スカー・・・?」
泪に煙ぶる瞳を凝らし、オスカーを見つめる。
ジュリアスに見つめられ、初めて指をその濡れた頬に触れさせた。
僅かに、ジュリアスがその指に貌を寄せる。
伏せられた瞳から、尚も泪が零れ落ちオスカーの指を濡らしていく。
「ジュリアス様・・・」
優しく頬に指を滑らせていく。もっと硬質な肌触りかと漠然と思っていたが、驚くほど柔らかい。
軽く撫で摩るように指を動かすと、ジュリアスの心が次第に落ち着いていくのが分かった。
「・・・すまぬ・・・オスカー・・・その・・・」
先程まで泪で濡れていた頬は、今は薄く紅潮し瞳は恥かしげに伏せられている。
取り乱していたようだ、と、そう小さく呟き貌を伏せてしまった。
黄金の髪が静かにその姿を覆ってしまう。
オスカーはその髪を掻き上げ、今一度その貌を見つめたいと思う心を抑え、静かに声を掛けた。
「何か、飲み物でも貰ってきましょう」
その声に僅かにジュリアスの頭が上下した。
パタンと扉の閉まる音を聞いた途端、狼狽えたように貌を上げた。
「オスカー・・・?」
小さく呼んでみるが、応えはない。
「オスカー・・・っ・・・オスカー?」
すぐに戻るのは分かっているのだが、何故だか不安で我慢が出来ない。
常のような平常心には戻る事が出来ない。
オスカーがいなければ、また元の木阿弥だ。
「クラヴィス・・・・・・」
「クラヴィス・・・・・・何故来ぬのだ?」
ポツリと呟く。か細く消え入りそうな声で何度も呟く。
「約束・・・したではないか・・・」
「わたし・・・との・・・や、約束など・・・っう・・・」
一度緩んだ涙腺は脆く、一粒また一粒と泪を溢れさせる。
「わた・・・し・・・が悪・・・い・・・っ」
心無い一言を投げつけた自分が悪いのだ。ジュリアスはもう何度も反芻した、あの言葉を悔やむ。
「悪かった・・・だから・・・」
後悔しているのだ・・・。呟きながら、ジュリアスの身体はフラリと窓辺に寄っていた。
知らず窓を開き、バルコニーに出る。
聖地の気候は一年を通してほとんど変化はない。とはいっても夜はいくらか気温も低くなっている。
夜着一枚で佇むジュリアスは、決して寒さを感じていぬはずはないのだが、惚けたように佇んでいる。
「クラヴィス・・・」
月に照らされ、燐光を放っている光の化身は、何者をも近づけぬ程気高く美しい。
オスカーは寝台にいる筈のジュリアスが、バルコニーに佇んでいるのを見つけたが、ただ時の経つのも忘れて見惚れていた。
そして、気が付くとジュリアスはどこにもいなくなっていた。
ただその気配のみが濃密にその場に漂っていた。