降誕祭

 

 夜の澄んで冴え渡った空気が、夜着一枚だけ纏った身には刺すように痛く感じた。
 白い夜着、金の髪が青白い月光を受けて、ほの白く光る。
 バルコニーの真下に迫る森にジュリアスはいた。
 鬱蒼とした森の木々は、隙間なく生い茂っていたがジュリアスは不思議とそれらに阻まれる事もなく、奥へと進んでいた。
 木々の隙間から挿し込む僅かな月の光を頼りに、そろそろと歩を進めるとやがて急に広い空間に出た。
「ここ・・・は・・・?」
 くるりと反転しながら周りを見渡す。白い夜着が風を含んで広がり、金の髪と共に新たな光を生む。
 円く開かれた空間のその中程に、見上げねば全体を見られぬ程の大きな木が立っていた。
「もみ・・・の・・・き?」
 震える声は寒さのせいか、ジュリアスはその身を掻き抱きながらその大木を見上げる。
 天空を仰ぎ見ながらその闇色にクラヴィスを想う。
「クラヴィス・・・」
 夜空に浮かぶ星を見つめている内に、次第に滲んで見えなくなってきた。
 目頭が熱くなり、泪が伝う。
「クラ・・・ヴィ・・・ス・・・」
 次々と溢れ出す泪に、もう瞳を開けている事も出来ず、ふらつく身体を支える為に樅の木に縋りついた。
 ざらついた幹に手を触れそのまま崩れ落ちるように膝を突く。
 暫くその格好のまま蹲っていたジュリアスの耳に、息を呑むような音が聞こえた。
 貌を上げると、そこに漆黒の闇を纏った男が立っていた。
「クラヴィス・・・?」
 泪に霞む眼を凝らし、必死に見ようとする。
「・・・・・・ジュリアス」
 息の漏れるような微かな声で名を呼ばれる。霞んで良くは見えないが、感じるサクリアは間違えようがない。
「クラヴィスっ!」
 夢中でクラヴィスの傍ににじり寄った。
「クラヴィスっ!クラヴィスっ・・・うっ・・・」
 服の裾を握りしめ泣き崩れる。
 自分の足元に投げ出されたその身体が、夜着一枚しか纏っていない事に気づく。
 クラヴィスは慌てて外套の中にその身体を抱き込んだ。
「っ、ジュリアス・・・」
 案の定寒さに凍えたその身体は、思っていたよりもずっと儚く華奢で、その金の髪さえも夜露に濡れ冷たく冷え切っていた。
「な・・・ぜ・・・」
 ジュリアスの嗚咽に途切れる言葉に胸が切り裂かれる。
「なぜ・・・まっ・・・ていた・・・の・・・に・・・」
 ジュリアスの言葉に、肩口に埋められたその貌を無理やり上げさせる。
「本当か?ジュリアス」
 急き込んだように聞き返すクラヴィスの声に、未だ引かぬ泪を眼にため?める。
「待っていたというのは、本当のことなのか?」
 続くクラヴィスの声に、ジュリアスは呆然と頷く。
「待ってい・・・た・・・ずっ・・・と・・・そなっ・・・たを・・・」
 後は滂沱と溢れる泪がそれを証明している。
 クラヴィスはその白皙の頬に流れる泪に口唇を寄せ、そのまま折れんばかりにその身体を深く抱きしめる。
「まって・・・いた・・・のだ・・・クラヴィ・・・ス」
 ジュリアスの言葉に、歓喜する心の叫びを止めることが出来ない。
 酷いとは思うが、ジュリアスの泪さえもその喜びをより深く実感させるものになるのだ。
 もっと己の為の泪を流して欲しいとまで思う浅ましさに、クラヴィスは自分の想いがここまで追いつめられていたのか、と愕然とした。
 ジュリアスの顫える身体を宥めるように撫で摩り、その金の髪に貌を埋める。
「ジュリアス・・・すまぬ・・・」
 クラヴィスの優しい声と腕にジュリアスはその身を弛緩させ、そのまま眠りにつくように意識を遠のかせていった。